「全く。恥ずかしいことしないでおくれよ。冗談もわからないんだから」

 ぶつぶつと文句を言いつつ、千代が粥を冷ます。
 まだ身体も本調子ではないので、千代の食事はもっぱらお粥だ。

「そんなこと言って。お前だって頭領を誘えばいいって清五郎さまが仰ったときは、嬉しそうにしてたじゃないか」

 セツがからかいながら、やんわりと嫁を庇う。
 そして、夕餉の膳に味噌汁を添えて、清五郎の前に出した。

「これは、立派なものだな」

 膳の上には川魚や山菜のお浸し、芋の煮物などが並んでいる。

「そろそろ雪も解けます故、山菜もよく採れまする。嫁の腕も、なかなかのものですよ」

 千代の兄・源七郎が、清五郎の杯に酒を注ぎながら言った。
 そして、どうぞ、と箸を勧める。

「いただきま~す」

 清五郎と一緒に呼ばれた捨吉が、嬉しそうに手を合わせて、膳に箸を付けた。

「美味しっ。源七郎さん、良いお嫁さん貰ったんだねぇ」

 にこにこと箸を進める捨吉に、部屋の隅でその嫁は、ちょっと嬉しそうに笑った。
 そして、単しか着ていない千代の肩に、綿入り半纏をかける。

「お千代ちゃん。傷の具合はどう? 無理しないで、辛かったら残してもいいのよ」

「大丈夫よ。あんたのお粥は美味しいもの。それより、いい加減にあんたも食べな」

 仲が良いんだか悪いんだか。
 文句を言われても、嫁は千代を気に掛けるし、千代は横柄な物言いながらも、そう嫌なことは言わない。