「千代姐さんは、美人だものね……」

 相変わらずぼそぼそと、あきが言う。

「まぁね。それは認めるわ。頭領といるところを見ると、美男美女で圧倒されるもの。でもそんな千代姐のことも、頭領はあの通り」

 ひらりと、ゆいは片手を庭先に向けた。
 先程真砂と千代がいたところだ。

「頭領って、どんな人が好きなんだろう」

 ぼんやりと、あきが言う。
 ゆいも首を傾げた。

「……想像つかないわね。もし頭領に召されても、嬉しい傍ら恐ろしいし。万が一頭領が、あたしと祝言挙げるって仰っても、ちょっと困るわぁ。毎日緊張しっ放しになっちゃう。頭領のお傍に侍れるのは嬉しいけど、恐怖のほうが大きいわ」

 言いつつ、ゆいはちらりとあきを見る。

「あんたはその点、そうでもないんじゃない? 何度か頭領に召されてるでしょ?」

「え、でも、ほんとに抱かれるだけだもの。こっちは緊張してるから、何が何だかわかんないし。そうこうしてるうちに、あっという間にそれどころではなくなる感じ」

「乱破の男は、上手だっていうもの」

「そうなの?」

「そうよ。相当格の高いお屋敷の内情を探るときにはさ、男も身体を使うことがあるんだって。それこそ大奥とかさ、女だらけじゃない。そこに入り込むために、女を虜にするのよ」