ははは、と笑っていると、襖の向こうから、失礼します、と声がかかった。

「これは清五郎様。いらせられませ」

 千代の母・セツが、籠に盛ったみかんを抱えて、部屋に入ってきた。

「千代に結構なお薬を頂いたようで」

「ああ。セツ殿も、どこか怪我をしたら使うがいい。良く効くぞ」

「ほほ。そうですね、そうしましょう。お礼といっては何ですが、夕餉などご一緒にいかがです?」

 気軽に清五郎を誘うセツに、お茶を運んできた兄嫁が、小さく息を呑んだ。
 そこにいるだけで畏縮してしまう存在の清五郎と食事など、とても出来ないと思ったのだろう。

 しかも、清五郎に出す食事は、己が作ることになるのだ。
 そんな嫁に、セツは渋い顔を向けた。

「全く、失礼な態度を取る子だね。お前がそんなに畏縮してちゃ、清五郎様だって寛げないだろ。心配せんでも、お前の飯は、そう不味くないものだ」

 言い方はきついが、いびるようなことはしない。
 だが大人しい嫁からすると、きつい物言いだけでも畏縮してしまうものだ。

 は、はい、と小さく返事をし、部屋の隅で小さくなる。
 その態度に、またセツは、全く、と呟いた。

「まぁまぁ。だが、そうだなぁ。そういうことなら真砂にこそ礼をすべきだろう。千代を助けたのは真砂なのだし。夕餉に、真砂も呼ぶか?」

 え、と千代が、ちょっと嬉しそうな顔をしたが、部屋の隅では兄嫁が、今度こそ大きく息を呑んで仰け反った。