奥に敷いてある夜具に千代を下ろすと、清五郎は懐から小さな貝の入れ物を取り出した。

「我が家に伝わる、秘伝の傷薬だ。刀傷に良く効く」

「え……」

「ま、まぁそんなっ! 恐れ多いことです! そのように大事なものを頂くわけには参りませぬ!」

 千代も驚いたが、それ以上に、兄嫁がいきなり大声を上げた。
 その大声に驚いた清五郎が振り向いて見ると、兄嫁が手を付いて慌てている。

「うちの愚妹のために、そのような……。お気持ちだけで、十分でございます!」

 清五郎の差し出す薬を押し戻したいようだが、触れる勇気はないようだ。
 近づく勇気すらないようで、離れたところから、わたわたと手を振っている。

 ふぅ、と息をつくと、清五郎は兄嫁に身体を向けた。

「俺が千代にやりたいのだ。お前が口を出すことではない。千代は十分過ぎる働きをしたのだ。褒美としても、安過ぎるぐらいだな」

 少しきつく言った清五郎に、兄嫁は、は、とまたも平伏する。

「……ちょっと、二人にしてくれぬか」

 どうもこの兄嫁がいると、空気が硬くなる。
 兄嫁は、さらに額を床に擦りつけると、そろそろと部屋を出、襖を閉めた。