「うん? だったらもし真砂の外見が醜男でも、能力があのままなら、お前は醜男の真砂をここまで慕うのか?」

 ぐ、と黙った千代に、清五郎が笑いかけた。
 そして、とん、と軽く千代の腹を叩く。

「とにかく、此度の指令では、お前は十分働いた。真砂もそれは認めているし、そもそもそれでなくても、真砂はお前の身体を心配していた。慣れているからと軽く見ていると、治るものも治らんぞ。お前の傷は、あきよりよっぽど酷いのだからな」

 千代は己の腹に置かれた、清五郎の手を見つめながら、ちょっと不思議な気持ちになった。
 真砂が己のことを心配してくれている、ということよりも、腹の上の手から伝わる温かみが、何かじんわり心までも温めるようだ。

 清五郎はしばらくそのまま、縁側に座っていたが、やがて千代を抱いたまま立ち上がった。
 そして兄嫁に目をやる。

「奥に入ってもいいか?」

「あっは、はいっ!」

 あたふたと、兄嫁が部屋の隅にさがり、またも平伏する。
 その態度に、清五郎は少し苦笑いし、千代は心の中で舌打ちした。

「では遠慮なく。……ああ、平伏するよりも、襖を開けて欲しいのだがな」

 奥の襖の前で言った清五郎に、兄嫁は、がばっと顔を上げると、申し訳ございません! と小声で叫んだ。
 膝でいざり寄ると、急いで襖を開ける。