「もう出歩いても大丈夫なのか。無理はするんじゃないぞ」

 庭に降りながら言う清五郎に、千代は軽く首を振った。

「いつまでも寝ていては、体力も落ちてしまいますもの。女技なら慣れてますから、平気です」

「でも、今回のように酷いのは初めてだろう。斬られてるんだし」

「大丈夫ですよ」

 言いながら歩き出そうとした千代の踏み出した足が、つるりと滑った。
 まだ足に力が入らないのか、踏ん張りが効かない。
 倒れそうになった千代を、清五郎が抱き留めた。

「ほら。無理せず、しっかり治すことだ」

 そう言って、清五郎は千代を軽々抱き上げた。
 そのまま、縁側に戻って腰を下ろす。

「傷のほうは?」

 縁側に座っても、千代を下ろすことはせず、清五郎は彼女を膝に抱いたまま言う。

「斬られた傷は、大したことありませんわ。でも、死んだふりをするために傷つけた腕のほうが、ちょっと酷かったですわね」

 千代は家老の元に戻る前に、寝所で見つけた杯を、胸元に入れた。
 万が一斬られたときでも、陶器を仕込んでおけば、致命傷にはならない。
 だから常に家老に身体を向け、いざ斬られる、となったときに、杯に当たるよう、胸を突き出したのだ。