目も眩むほどの谷底にかかった小さな橋を、真砂(まさご)は特に危なげなく渡った。
橋の向こうもこちら側も、変わりない鬱蒼とした森が広がっている。
橋を渡り終えたところで、真砂は一旦立ち止まった。
ふぅ、と息をつく。
吐かれた息は白く、足元は深い雪が積もっている。
空を見上げれば、また雪が降りそうな曇天だ。
右手に持った兎を握り直し、真砂は再び足を進めた。
「頭領っ」
森に入ってしばらく行くと、前から捨吉(すてきち)が走ってきた。
「あっ兎だ! 今晩は兎汁ですか?」
真砂の手にした兎を見、弾んだ声を上げる。
そして、手に持っていた蓑を、ばさ、と真砂の肩にかけた。
「またすぐに大雪になりますよ。そんな薄着で、うろうろしないでくださいよ」
「……何だよ、お前は。お前といい清五郎(せいごろう)といい、俺を構い過ぎだ」
ちょっと渋い顔で言う真砂が、蓑を取ろうとする。
が、それを捨吉は制した。
「駄目ですよ。乱破(らっぱ)ともあろうものが寒がってたら駄目だって言うんでしょうけど、それ以前に、万が一人に会ったときに、そんな薄着だと、返って怪しいです。普通の人間は、今の時期なんて完全な冬仕様なんですから」
「……」
捨吉の言うことも、もっともだ。
真砂は黙って、そのまま歩き出す。
橋の向こうもこちら側も、変わりない鬱蒼とした森が広がっている。
橋を渡り終えたところで、真砂は一旦立ち止まった。
ふぅ、と息をつく。
吐かれた息は白く、足元は深い雪が積もっている。
空を見上げれば、また雪が降りそうな曇天だ。
右手に持った兎を握り直し、真砂は再び足を進めた。
「頭領っ」
森に入ってしばらく行くと、前から捨吉(すてきち)が走ってきた。
「あっ兎だ! 今晩は兎汁ですか?」
真砂の手にした兎を見、弾んだ声を上げる。
そして、手に持っていた蓑を、ばさ、と真砂の肩にかけた。
「またすぐに大雪になりますよ。そんな薄着で、うろうろしないでくださいよ」
「……何だよ、お前は。お前といい清五郎(せいごろう)といい、俺を構い過ぎだ」
ちょっと渋い顔で言う真砂が、蓑を取ろうとする。
が、それを捨吉は制した。
「駄目ですよ。乱破(らっぱ)ともあろうものが寒がってたら駄目だって言うんでしょうけど、それ以前に、万が一人に会ったときに、そんな薄着だと、返って怪しいです。普通の人間は、今の時期なんて完全な冬仕様なんですから」
「……」
捨吉の言うことも、もっともだ。
真砂は黙って、そのまま歩き出す。