バリンッと、皿の割れる音がする。
“酒はないのか⁉︎酒を出せ‼︎”
父が怒鳴り散らす。
先ほどの父とは、正反対。鬼のような形相で、母を殴る。蹴る。
“あなた‼︎やめて‼︎”
母が必死に父を宥める。けれども父の怒りは収まらない。
父が目線を小さな私に向ける。
“ひっ…”
“お前もな、メソメソ泣いてんじゃねえよ‼︎その耳障りな声‼︎聞きたくねえ‼︎”
そう言って、私の頬をバシッと勢いよく叩く。
赤く腫れて、痛そうだ。
“ごめん、なさい…殴らないで…”
“奈緒っ‼︎あなた‼︎奈緒に手を出さないでって何度も言ってるでしょう⁉︎”
“こんなクソみたいなガキと女房なんか俺は入らねえ。出てってやるよ。”
頭に血管を浮かばせて、服やお金を持って出ていこうとする父。
“駄目‼︎そのお金は私が貯めたお金よ⁉︎奈緒と私で暮らすための生活費なの‼︎”
“また貯めればいいことだろう。別に、俺はお前らのことなんざ、知ったこっちゃねえ。”
バタン________
父がでて行った。
呆然と立ち尽くす母と、すすり泣く私の声。
思い出したくなかった記憶が、鮮明に浮かび上がる。
離婚した理由は、深くは知らないが、父が原因ということはよくわかった。
知らない方が、いいのかもしれない。
ノイズが走り、見えなくなった。