「ゴホッ…おかえり、奈緒。」
「ただいまお母さん。起きなくていいよ?寝てて。」
「そう、ごめんね。ありがとう。」
痩せ細った体をフラフラと起こす母。
病に侵されて、弱り果てている。
五年前、母は“癌”だという事が判明した。
それから、抗癌剤治療などを受けて、通院はしているものの家で生活できるまで回復した。
「お薬、ちゃんと飲んだ?」
「ええ、飲んだわ。やっぱり飲み辛いわね。」
苦笑いをしている顔は、何処か疲れていて、前よりやつれている。
日に日に痩せ細る母がとても心配である。
「ご飯、食べられる?作っといたから、食べといてね。私バイト行ってくる。」
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
「うん。」
「何時くらいになるの?」
「十一時くらいかな。」
「そう、わかったわ。」
「じゃあね。」
そう言い残して、扉を閉めた。