駆け足で、下駄箱に向かい靴箱を開けると、案の定靴がなかった。
まただ。
でもどうせゴミ箱だろう。
ゴミ箱の中を見ると、酷く傷ついたローファーが入っていた。
毎度毎度同じことをしてよく飽きないものだ、と呆れる。
「タオル、どこにしまったっけ。えーと、あった。」
鞄を漁って、水に濡れた体を拭くためのタオルを出す。
ある程度拭いたら、靴の汚れをぱっぱとはらって、靴を履く。
すこし湿った髪が、したを向くたび頬に張り付く。
髪を耳にかけて、外に出る。
外は、春の始めですこし肌寒い。
陽が暖かく照らして、目が眩む。
学校を出て家に向かうため、商店街に出ると、濡れていた服や髪はほぼ乾いていた。
タオルで水気をとったからだろう。思いのほか早く乾いた。
背中の半分ほどまで伸びた黒髪は、風に吹かれて美しくなびく。
小さい頃から伸ばしていた、自慢の髪だ。
商店街を抜けて、広い団地に入る。
少しだけ、古びたアパートの二階に住んでいる。
表札に“南出”と書いてあるのを確認して、ドアを開けると、ベッドに横たわる母がいた。