「どうして?」

肩を竦めた比呂くんに訊ねると、彼は苦笑した。

「普通引くよ。女の子を脅迫して、奴隷にして、いいように弄んだとかね」
「でもそれは私が」

私には奴隷にならない道もあった。
それを捨てて、母の秘密を守ろうとしたのだ。比呂くんの気持ちも考えずに。

「円は悪くないよ。良子さんは君の唯一の肉親なんだ。それくらい当然だよ」

だけど、あの頃の気持ちはもうない。
母には取り返しのつかない酷いことを言ってしまったし、正直本心に近い。

とてもそんなことは言えなくて、私はぎこちなく笑うしかなかった。

「やっぱり比呂くん……最近変だよ?」
「円こそ、良子さんのお弁当は?」

比呂くんの言葉が不意に核心をついた。
……見透かされている。