「あぁそれと、今回の件に関して、美優は勿論、誰にも言わないでくれるか?」

「…お伝えしないおつもりですか?」

「あぁ。余計な心配をかけたくない」

「しかし、お嬢様は社長秘書でもあるんですよ?秘書である自分がこのことを知らないと知ったら…」

「まぁ、怒るだろうな。しかし、それでも心配させたくないという親心だ。田中、わかってくれ」

「承知しました」

「ありがとう。さて、さっさと問題を片付けて美優の婿探しをしないとな」

「社長…まだ諦めていらっしゃらないのですか?」

「当たり前だ。美優には幸せになってもらいたいと思うし、ゆくゆくはこの会社を継いでほしいと思っている。それには婿養子でなければならないし、中途半端な男では許されない…」

「お嬢様の幸せを願うのであれば、お嬢様の好きな相手との結婚を望んであげたら如何でしょうか?」

「…この件に関してだけは相変わらず田中と意見が合わないな」

「そうですね…」








徹也の言葉に、田中は苦笑いしか出来なかった。
娘の幸せを願い、結婚相手を見つけたいという徹也の思いも、幸せを願うからこそ、好きな相手と結婚してほしいと願う田中の思いも、どちらも分からなくはない。



こればかりは、価値観の違いであり、両者それぞれの思いがあるからこその相違。
田中にも娘がいる為、自分の娘のことを思うと、どうしても徹也の意見に対して素直に「うん」と頷けないのであった。