「失礼します。社長、お呼びでしょうか?」

「あぁ…田中。悪かったな、急に呼び出して」

「いえ…。それでご用件は?」

「実は…長谷川社長がうちと業務提携をしたいと言ってきた」

「業務提携…ですか?」

「あぁ…。しかし、業務提携とは名ばかりで、大方買収だろうな」

「しかし、何故長谷川社長はうちの会社を?」

「理由はわからない。だが、長谷川グループは幅広く事業を展開している会社だ。今回の件も、その一貫なんだろう」

「まぁ、確かに長谷川社長はその点敏腕だという噂は私の耳にも入って来ています。社長…この件、どうするおつもりですか?」

「……田中、お前はどう思う?」

「私は社長に雇われの身です。社長の支持に従うまでです」








田中は真っ直ぐ社長の目を見て答えた。









「なぁ、田中。私はこの会社を一人でここまで大きくして来たつもりはない。お前と二人三脚でこの会社を大きくしてきたつもりだ。勿論、社員達には感謝をしている。私の思いを引き継いでここまで一緒にジュエリーショップcloverを大きくしてくれたんだからな。だからこそ、迷う」

「社長?」

「長谷川グループに買収されれば、この会社も安泰だし、今よりももっと大きな会社と成長するだろう。だが…買収されるとなると、今まで築き上げてきた物が失われる可能性がなきにしもあらずだ。そうなるのは心苦しい。私はこの会社が大切なんだ…」

「それは私も…いえ、社員全員同じ気持ちだと思います」

「なぁ、田中。私がこの業務提携を断ると言ったらお前はどうする?」

「社長の一存に従うまでです。私もこの会社の理念がなくなるのは嫌です。勿論、それは社員全員同じ思いだと思います。私達は社長の理念に則って仕事をしているんですから」








田中の言葉に、徹也は嬉しそうに微笑んでいた。