「霊安室行かない?」




「死んだ人一時的に置いとくとこでしょ。




やだよ、怖いじゃん。真夜中に」





「きーさんいつまで入院するの?」




「明日」





「じゃあ、尚更じゃんか。行こう」





「やだって」






霊安室なんて、怖い。





死んだ人がいるところ。






さっきまで私達と同じく




呼吸をして




心臓も動いていたのに






突然この世界から排除される。






平和な国では、生きる事より死ぬことの方が




ずーーっと難しい。





病気になったら病院に行けるし






ご飯は一日三食食べられるし






障がい者になったら支援をされる。






近頃の若者は、なんて自分も含まれるから言いたくないけど





わがまますぎるんじゃないだろうか。





戦争や紛争を起こしている地域は




死にたくないんだろうか。






死人を見ると、想像してしまう。





だから、嫌。







「そんな酔狂じゃないから」





「別に酔狂じゃないだろ」






少し機嫌が悪くなった彼がぼやく。





私は彼との会話より



ピアノ曲、メンデルスゾーンの「紡ぎ歌」に




指をはせていた。




紡ぐように、滑らかに弾くこの曲は



私の十八番でもある。




性格からは想像もつかないとは言われるが




私はファンタジー物が大好きだ。





あの苦くて可愛いメロディに私は惚れた。




その手に気づいた彼が突然私の手をがしっと掴む。





「行こう。」




「え!?だからやだってば!!」




「大声出すなよ。怒られてもいいの?」






思わず黙る。




怒られるのは御免だ。





あんなイライラする医者が来たら困る。





彼は私の手を引いて階段を駆け上がった。





不思議とついていくことができた。