彼は怪我した足を引きずっていて



見るからに痛々しかった。




しかし彼はきつそうでもなくて


むしろにこにこしていた。



隣座る、と言って彼は椅子に座る。




終始無言。




別に、話すこともなかった。




よくよく考えてみれば話題なんて


たくさんあるのだけれど話す気分ではなかった。




「きーさんって話し方が大人だよね。


色んな意味で」



「そう?」




「ほら。」




「どう返せば古風じゃないの?」




「ん~…そうかな?とか」




「『かな』つけただけじゃんか」





彼は面白がっている。



話し方で分かった。




病人だし手加減はしておこう。




耳を思いっきりつねってやった。





「いだだだだだだだ…」



「面白がってるでしょ」



「あ、バレた?いでで…」




耳をつねる。


すると彼は




「久しぶりに話したね」




「言われてみれば」




「本、なんかない?」



「人間失格なら持ってる」




「太宰治の?」



「うん。貰った。ボロッボロのやつ」




「今度貸して」



「うん」





そんな会話しかしなかった。



他の話題があるだろう、と言われれば




頷くしか出来ないのだが



他の話題はお互いが知っていることの


気がした。



パーカッションまた部活動停止くらったとか


姫が自分のサックス買ってもらったんだとか



そんな他愛のない話しかない。




時間だけが流れるように過ぎていった。