「いえ…何も…。」


「そっか…覚えてるのは私だけかっ。」


美咲さんはふふっと悲しそうに笑った。


違う…橘さんは忘れてなんかない。
覚えてるからこそ,何も言わないんだよ…


「ねぇお願い。これを…ツトムに渡して?」


美咲さんは鞄の中から一枚の封筒を取り出した。
綺麗なピンク色が美咲さんにまた似合ってて胸が痛んだ。



「これは…?」


「ツトムに渡せば…きっとわかるから…。電話しても,もう繋がらないの。お願いっ…!!」


美咲さんは私に頭を下げた。
小さく肩が揺れている。


――泣いてるの?


私だって泣きたいよ…


「わかりました。」


美咲さんは,ぱっと顔を上げて
私に呟いた。
今にも消えそうな声で…



「ありがとう…っ」


美咲さんの瞳から一筋の涙が頬を伝った。