パスタを食べ終わり、食後のコーヒーを飲んでいても、無言の時間は続いた。
何か訊ねても、短い返答しかないので、私自身も会話することを諦めてしまっていたのもある。

そうやって、なんとも静かなランチが終わりを迎えようとした頃。
不意に、乾君が口を開いた。

「碓氷さん」
「ん?」

突然話しかけられて、残り少ないコーヒーのカップを眺めていた視線を勢いよく上げると。

「笑顔、素敵ですね」
「……え」

思わず目が点。

河野だったら、ここでぶほっと口から何かしら噴出していたに違いない。
けれど、余りにも予想外というか、突飛な発言に表情がついていかないのだ。

えーっと。
こういう場合は、なんて言えばいいんだ。

前後に何もない不意打ちのような、褒め言葉? でいいのかな? に戸惑う私。

うん。
これは、褒められていると受け取ってもいいんだよね?

とりあえず、お礼か?

「ありがと」

なんだかよく解らないまま褒め言葉に対してお礼を言うと、満面の笑顔が返された。

え……、あ。

笑うんだ。
しかも、いい笑顔じゃない。

正直、こんなに花が咲いたみたいにパーッと笑うところを見たこともなかったし、想像もしていなかったので驚きと躊躇いと。

それから、それから。

うん。
その笑顔につられてしまった。

口角を存分に上げてしまう私を見て、乾君がまた笑顔になる。
なんか、楽しいかも。