昼時になり、財布を持って席を立つ。

今日は、何を食べようか。
近くの洋食ランチにするか。
もしくは、中華。

迷いながらフロアを出ると、乾君が待ち構えていたように立っていた。

「あ、お疲れ。あれ? 何か用事だった?」
「あ、いえ。はい」

ん?

歯切れの悪い返答に、首をかしげる。

「あの、これからお昼ですか?」
「うん。乾君も?」
「はい。梶原さんは、席で摂るらしく、僕には外へ行って来いというので」

梶原君らしいな。
独りで黙々と作業をするのが好きなタイプだから、ランチもみんなで一緒に、なんていう性格してないんだよね。

「碓氷さんも、ランチですよね?」
「うん。あ、一緒に行く? なんて、上の人間と行っても気を遣うだけよね」

私は、笑って肩をすくめる。

本社にいる上の人間は、余り部下とランチに行ったりしない。
部下は部下同士、本社の愚痴や上司の愚痴をこぼす時間を作りたいものだろうから、その時間をわざわざ壊すなんて論外だ。
だから、まさかそんなことを言われるとは思ってもいなくて、つい声が大きくなってしまう。

「一緒に行ってもいいですか?」
「えっ?」
「僕とは、イヤですか?」

イヤとかそういうレベルの話じゃなくて……。

思わず苦笑いがこぼれてしまった。

「私はいいけど。本当に一緒でいいの?」

冗談?

「是非」

……じゃないらしい。

というか、是非、なんていわれるとは。

本部の上司なんて、疎まれてなんぼ的なところがあるから、こんに風に慕われるとちょっと嬉しいかも。

部下からランチを誘われるなんて、店長をしていた時を思い出すなぁ。
あの頃は、和気藹々でみんなで士気を高めあっていたっけ。

過去に経験した楽しい時期を思い出し頬が緩む。