大切な、人……

本人も、“ココは友達以上かも”とは言ってたけど、京香さんの言う“大切な人”とイコールでは結びつかないと思う。

あたしのことは、仲間っていうかさ。

そういう色っぽい対象としては絶対見てない。


「……残念ながら、たぶんそれは京香さんの思い込みかと」

「ええー? そうかなぁ」


不満そうな顔をしながらも、それ以上は踏み込んでこない京香さん。

あたしの意見を簡単に否定したりしないところが、やっぱり大人だなと思うし、ここへ来たのはまだ二度目なのに、居心地がいいと思ってる自分がいる。


そのうち、京香さんは「私、ちょっと裏でやることあるから、好きにくつろいでいてね」と言い残し、お店の奥へ引っ込んでしまった。


とりあえず、残っていたレモンスカッシュを飲み干して、ぷは、と息を吐き出すと、カウンターに頬杖をついてぼんやりと宙を眺めた。

いつ帰ろうかなぁ……

家に帰ってもやることないし、息が詰まるし。


っていうか、これから毎日夏休みだよ……

宿題も、メンドクサイ……


憂鬱なことばかりがぽんぽん頭に浮かび、力をなくした頬杖がつぶれておでこをコツンとカウンターにぶつけたときだった。



「――あ。ココいた。つか迎えに来いって言っときながら寝てるし」



がばっと体を起こして見つめた方向には、呆れたような目であたしを見る真咲。


な、なんで……?

それに、迎えに来いって……?