「なあ、お前、シノノメって奴と仲いいんだろ」

 昼間、道を歩いていると、男性に声をかけられた。でも顔はよく見えない。見た目すらよくわからない。というか、声だけがする。男の声が。
 誰よ。

「シノノメさんとは、別に仲がいいなんてことはないです」
「嘘つけ」
「嘘ではないです」

 ならあの手紙はなんだ、と男は付け加えた。

「手紙は確かにもらいましたけど、内容は見てませんよ」
「そうかそうか」

 男は満足そうにそう言った。許してもらえたのか、そう思った瞬間。

 どすっ。
 私の腹に、いきなり鈍い痛みが走る。
「う……っ」
「ふざけるな!! 俺の手紙を読め!!シノノメの手紙はどうでもいいんだ」

 殴られたのか、蹴られたのかもわからない。だって相手の姿がない。
 誰よ。アンタはいったい誰よ……!

「助けて……し、シノノメさん……」
 無意識に口からでた言葉に気づき、口を塞ぐがもう遅い。
「ふざけんな!! シノノメがなんだってんだよ!!」
 怒り狂った、姿のない男は言う。
「いいか。お前は俺から逃げられない。俺もお前から逃げられないんだ。お前が俺の心をつかんだまま、離さないからなぁ……!」

 気持ち悪い。
 うつろな目で最後に見たものは、私の目に飛んでくる、鋭く銀色に光る――包丁だった。

 ぐじゅ。
 目の前が紅く染まる。目が潰れていく感触。男が私の目玉を食べ散らかしていくような錯覚。
「いや……ぁ、い、あああああああ!!!」

――逃げられないんだぜ。
 男の小さな笑い声が聞こえた気がした。