ぱたん。
 部屋のドアを閉める。

「はあ……」

 結局、この日はおばあちゃんとほとんど話さないまま夜を迎えた。
 まるで、異様な空気に今もとらえられ続けているようだ。

 でも、今日外出はしなかった。おかげでストーカーの存在を感じることはない。少し安心したものの、ストーカー野郎が消えてなくなるわけじゃない。本当なら、私が直接殴ってやりたい。

 ……でも、疑惑のシノノメさんでさえ、あんなに私は取り乱してしまったんだよなあ……。

「ストーカーに勝てる気がしない」

 そう呟いて、部屋のベッドに身を投げた。リリはおばあちゃんのところで寝たみたい。リリもやっぱり、叫んだ私といたくないのかな。
 一人寂しく、寝ることにしよう。

 机の引き出しの中にシノノメさんの名刺を入れ、今日一日であったことを思い出す。

 シノノメさんと知り合った。シノノメさんを殴った。シノノメさんはずっと笑っていた。シノノメさんに名刺をもらった。シノノメさんに頭を撫でられた……。
 そのことを思い出すと、徐々に顔が熱をおびてくる。

「……っ、もう寝る……」
 毛布を顔まで引き上げて、眠りにつこうとする。

 ……私、何か忘れてない?
 気のせいか。
 そのまま私は深い眠りについた。