ぽん。

 私の頭に、手が添えられる。
 温かい、大きな手。もちろんこの手の主は見なくてもわかる。シノノメさん。

「……何、してるんですか」
「女の子は泣かせてはいけないと言いますからね。泣かないでください」

 玄関前の外で何をしているんだ。いきなり泣いて、本当私って情けない。

「何故、そんなに泣いているのですか?」
「……シノノメさんには、関係ありません」
「でも心配ですから。話を聞くくらいならできますよ」
 その言葉に、私は顔をあげた。

 シノノメさんはスーツからなにかを差し出した。
 名刺だ。
 必要最低限のことしか書いていないそれに、大量の手紙の恐怖を若干思い出す。

「何かあったら、この番号にかけてください」
「え、あ、あの……」
 名刺を無理矢理手に持たせられる。なんで私にこんなもの……。

「……どうして、私にそこまでするんですか」
「何故でしょうね」
 問いを投げても、のらりくらりとシノノメさんはかわす。
「まあ、僕はこれで帰ることとします。ではキョウコさん、手紙、読んでおいてくださいね」

 それだけ言うと、シノノメさんは去ろうとする。私は急いで立ち上がる。
「あのっ、シノノメさん!!」
「はい」
 彼は振り向く。
「……叩いて、すいませんでした」

 私が謝ると、彼はまた笑顔で何も言わずに私に一礼をし、去っていった。