「キョウコちゃん、さっき大きな叫び声が聞こえたから何かと思ったら……。シノノメさんと話してたのねぇ」
「あはは。今、紹介してもらったように僕の名前はシノノメ カズマといいます」
シノノメ カズマさん。私の記憶のなかに、そんな名前の男性はいなかった。おばあちゃんの知り合いということもあり、 私はようやく顔をあげることができた。
すると、それまでわからなかった、というか見ようとしなかったシノノメさんの姿が目に入る。
年齢は見た感じ二十代後半、といったところ。オシャレだけどシンプルな黒ぶちメガネ、左目の下にある泣きボクロ。いかにもデキる男性。なんだろう、宅急便のCMにでてくるお兄さんのような感じ。しかし、着ているのはスーツ。
この人がストーカーなの?
私のなかからまだ疑いが晴れたわけではなかった。なによりも、私の名前を私から名乗ったわけでもないのに知っているのが、一番不審に思う点だもの。
「キョウコさん、あらためておはようございます」
爽やかな笑顔が、逆に私の不安要素を増やしていく。その笑顔の裏に狂気が隠されているような気がして。
ほら、だってシノノメさんの口角が、片方だけつり上がってる。
でも、なぜかしら。
私の口角も、ゆっくり、ゆっくり、つり上がっている気がするの。