なんで私の名前を知っているの? どうして私はこんなにこの人を恐れているの?
 いや。全ては結びつくからだ。この人が、私をつけるストーカーだったなら。

 私は玄関に、男は外に。でも私たちをさえぎるドアはない。私の手首と彼の手で、私たちは繋がっている。
 そう。この男が私を外に連れ出そうとすればできるし、私を殴って気絶させ、そのまま誘拐することもできる。

 なのに、男は私の手首をつかんだまま、それ以上はなにもしてこなかった。私が想像以上におびえているから? これ以上叫ばれると厄介だから? やっぱり何もしてこない。

「……キョウコさん、落ち着きました?」
「とりあえず、離して、ください」
 とぎれとぎれに出てきた言葉の羅列。相変わらず、私は前を向けない。

「驚かせてすいません。そういえば名乗っていませんでした。僕の名前は――」
「あら、シノノメさん」

 男の言葉をさえぎり、私の背後から聞こえた声。振り向くと、ニコニコしたおばあちゃんが玄関先に立っていた。

 ……シノノメ、サン?