「あのっ」

 相手の男が言った。しかし私は口を開かない。開きたくない、というよりも開けない。体が拒否しているんだわ。

「あのっ、昨夜――」
「喋らないでよ!!」
 初対面の人にもかかわらず、私は叫んでいた。

「……すいません、もう帰ってください」
 必死に絞り出した言葉は細く、弱く、私の口から出ていく。もう、アンタの声は聞きたくない。夢で聞いてこりごりなのよ。

「いえ、帰るわけにはいきません」
 そう言うと、男は……私の手首をつかんだ。男の綺麗な手が、私の汗ばんだ手首を!! その瞬間、言い様のない恐怖が私を襲う。
「ああ、あ、い、ぁ……」
 体が、顔が、口が「ケイレン」を起こす。

「は、はなし……て、くぁ……」
 必死に頼んでいるにも関わらず、
「キョウコさん。おはようございます」

 私の名前をその口で発した。