寒い。
私は高校の帰り、暗くなった夜道を歩いていた。少ない街灯に照らされる私の姿に、響くスニーカーの音。タバコの吸い殻や、ビニール袋がたまに、道の端に落ちている。
ああ、寒い寒い。早く帰ろう。コタツとミカンの最強コンビが私を待っているんだ。
そう思って、私はいつもより若干速めに歩く。スニーカーの音は余計に大きく響き出す。
キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キュ、キ ぎゅむ。
「……ん?」
今、私の靴音じゃない、別の音が聞こえた。気のせいなんてことは絶対にないわ。明らかに、私の出す音よりもひとまわり低い音。不気味なメロディーを奏でてる、そんな感じ。
……いや、考え過ぎね。こんなにも寒いから、きっと耳がかじかんでるのよ。耳も疲れてるんだ。だから早く家に帰って休ませてあげなきゃね。
キュ、キュ、キュ、キ ぎゅむ。
「……聞こえたわよね」
誰もいないのに、独り、誰かに確認をとる。絶対、絶対、「ぎゅむ」って音がしたわ。
音の正体を確かめるため、私は静かに振り向く。
しかし、そこに人はおろか、動物の姿すらない。動いているものが、ナイ。
ナイナイナイナイナイナイナイナイ。ナイ。私の空耳よ。ほら、ね、だから、今突っ立っている右足を踏み出して、歩くのよ。絶対に勘違いなんだから。
おそるおそる、右足を踏み出す。恐怖で固まっているのか、動きが恐ろしくにぶい。動け、動くのよ。
「……いっせーの―――」
ぎゅむ。
私は悲鳴をあげた。