「少し前まで……ここじゃない世界で私は生きてた。でも病気だったの。助からない病気。……もうすぐ死ぬ運命だった。そんな私を不憫に思った須勢理姫がひとつだけ願いを叶えてあげると言ってくださった。私は恋がしてみたいと言ったわ。同じ年頃の女の子が恋をしているのがとても羨ましかったから。そして少しの冒険も。なにより残り少ない人生を精一杯生きてみたかった、健康な体で」

いつの間にか祈祷もやみ、誰もが愛世の声に耳を傾けていた。

「短い間だったけど精一杯生きられてとても幸せだったわ。少しだけど働くことも出来たし大切な友達も出来た。恋も上手くはいかなかったけど、好きな人も出来たし…」

愛世は涙でグシャグシャな顔をエリーシャに向けて話し続けた。

「エリーシャ。お願いだからこれ以上皆の命を奪わないで。それから…私と行きましょう」

エリーシャは刺された傷よりも胸に広がる妙な感情に戸惑い、苦しさのあまり大きく口を開けた。

……この娘は本気なのか?本気で自分を犠牲にし、皆を救おうとしているのか?!

いや……そんなわけがない。そんなわけが。

エリーシャは胸に芽生えた慣れない感情を追い払おうとかぶりを振る。

その途端、懐かしい声が脳裏に蘇った。


『皆。きっと俺が命に変えても故郷を取り戻す。そのためなら俺は死んだって構わない。皆の幸せの為ならなんだってする。皆で帰ろう』


かつてそう言った夫ギアスの瞳と、愛世のそれとがまるで同じ光を放っていることに気付き、エリーシャの胸にジワリと熱が生まれる。

何なのだこの娘は。どうしてだ。

もしかしたらうわべだけでなく、この娘は本当に私と……?