愛世は続けた。

「それでザクシー族は敵討ちを兼ねて、今までの恨みを晴らすために山を降りたんでしょ?アンジー族に復讐するために。それをきっかけにふたつの民族は互いに殺し合ってきたのよね。そしていつの間にかザクシー族は『山賊』と呼ばれるようになってしまった」

たまらずエリーシャはアルファスを睨むと、大声をあげた。

「…お前達アンジー族にこの苦しみがわかるか!?大地を奪われ寒く冷たい山に追いやられ、降りることを許されず飢えと寒さに苦しみ続けたザクシー族の無念がわかるか!?」

エリーシャは低い声で続けた。

「私達ザクシー族は山賊になどなりたくはなかった…。ただずっとずっと……故郷にいたかったのだ。愛する家族と」

エリーシャの悲しみを含んだ声に、誰もが動きを止めた。

そんな中、愛世の頬に涙が伝い、ポタリポタリと地に落ちる。

流れる涙をそのままに、愛世は唇を開いた。

「だけどそれはもうはるか昔よ。憎しみが強すぎてあなた達は間違えたんだわ。幼い兄弟を殺したアンジー族はもうとうにいないのよ。心まで山賊にならず、これ以上罪を犯さないで」

エリーシャは、愛世を見て浅く笑った。

それからユルユルとかぶりを振る。

「ここで終わらせろと言うのか!?私で終わらせろと!?それでは夫ギアスに申し訳が立たない」

今までの憎しみや苦しみの大きさを考えると、エリーシャはとてもではないがそれをなかった事には出来ない。