エリーシャは息を飲んで愛世を見つめた。

肩から血を流し、傷をつけた張本人である自分を庇うため必死になって走ってきた愛世を。

傷付いた身体をかえりみず、アルファス王の前に立ちふさがっている愛世は、エリーシャが知るどの女神よりも眩しかった。

たちまちエリーシャの胸が、軋んだ音を立てる。

……この娘は……なんなんだ。どうして私を庇うのだ。

聖剣が突き刺さり、エリーシャの身体からドクドクと黒い血が流れ始める。

もはや飛ぶ力は失われたが、エリーシャは自分を庇い、アルファスに立ちはだかる愛世を睨み付けた。

「…お前は一体なんなんだ。何故お前は私を庇うのだ。……アンジー族でもザクシー族でもないお前が、どうして……!」

鍛冶神を味方につけたアンジー族に敗北した悔しさと、愛世のこの態度に混乱し、エリーシャは黒い涙を流した。

一方愛世は荒い息を繰り返しながらもエリーシャに向き直り、一生懸命言葉を返しす。

「村外れに住んでいるカルディさんに全部聞いたの。アンジー族とザクシー族の間に何があったのか」

…カルディ!!

カルディはエリーシャの遠縁であった。

「アンジー族に馴れ親しんだ土地を奪われたザクシー族は高山に追われ、過酷な生活を強いられたのよね。寒い高原で植物は育たず、家畜も思うように増えなかった。そんなある日、幼い兄弟が食べ物を求めて山を降りた。その幼い兄弟達を、心ないアンジー族が殺してしまった。少数民族のザクシー族というだけで」