「アイセ、私が誰か分かるか?」

滑らかな様子で、煙が大蛇に変わる。

大蛇は愛世に胴体を絡めたまま、低い声を出した。

その鋭い瞳は、愛世を強く見据えている。

愛世は恐怖のあまり全身の血が引いていくのを感じていた。

それでも締まった喉を必死で押し開き、震えながら答えた。

「エリーシャでしょう?本当に……蘇ったのね」

エリーシャは、愛世の怯えた声を聞いて面白そうに答えた。

「…いかにも。前回は殺し損ねたが今宵はそうはいかぬぞ。帝国ごと全て絶やしてやる!」

「見付けたぞ!悪鬼だー!あそこにいるぞ!」

下を見ると皆がエリーシャに気付き、こちらを見上げている。

弓矢隊が隊列を組み、素早く弓を構えるも、

「弓矢隊、矢は放つな!アイセが捕らえられている!」

この声……ディアランだわ。

愛世は必死でディアランの姿を探した。

ディアラン……ディアラン!

すぐに分かった。

鎧に身を包み、長剣を抜き放ったまま馬に乗ったディアランは、神話の神のように雄々しかった。

「ディアラン!」

愛世は声の限り彼の名を呼んだ。