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愛世は宮殿内の自室で考えていた。

とうとう満月の夜……エリーシャが蘇ると宣言した日が来てしまった。

窓の布をそっと押し開いて空を見上げると、今までに見たこともない赤みがかった満月が見える。

とても大きくて不気味なその満月は愛世の心を不安で押し潰さんばかりである。

……あの人は何処へ行ってしまったのだろう。

今朝から付き添っていてくれた護衛兵の姿が、いつの間にか見えないのだ。

どうしよう、外へ出てみようか。

けれどもしも部屋の外で待機しているのだとしたら……抜け出そうとしたのがバレてしまう。

帝国中に外出禁止令がしかれ、王宮内は兵以外、全員建物の中で待機となっている手前、堂々とは抜け出せない。

本当にエリーシャは悪鬼となって甦るのだろうか。

みんな殺されてしまうのだろうか。

この国は……ティオリーン帝国は絶えてしまうのだろうか。

そんなの嫌。嫌だ。

愛世は真っ赤な満月を見上げた。

それから思った。

……エリーシャは……もう既に甦っているに違いない。

だってこんな満月、変だもの。

愛世は窓に飛び上がると一端その上に両足を乗せ、意を決して外へと飛び降りた。