愛世の険を含んだ口調に、ディアランがゆっくりと振り返った。

そこに、冷たげに光る反抗的な黒い瞳を見つける。

その油断が危ないと、なぜ分からないんだ。

人の気も知らず、言うことを聞かない愛世にディアランは苛立った。

「いいから、宮殿から出るな!」

「っ……!」

なによ、こんなに大きな声を出すなんて…!

愛世は今まで一度もディアランに大声を出されたことなどなかった。

いつも穏やかで優しかった。それなのに…!

声を荒げたディアランに、愛世もまた語気を強めた。

「私にはもう時間がないの!失敗しても後悔だけはしたくない!だからほっといてよっ!!」

口を突いて出た言葉にディアランが眼を見張り、愛世は焦って部屋を飛び出した。

しまった、どうしよう!

…今の言葉を、ディアランはどう思っただろう。

頭の良いディアランの事だ。きっと妙に感じたに違いない。

セロを問い詰めるかも知れない!

そうしたら、セロは…。

言ってしまった言葉を取り消すことなど出来るわけもなく、愛世は後悔のあまり唇を噛み締めた。