「……言えないわ」

「何故だ?!」

ビクッとした愛世を見据え、赤茶の瞳が苛立たしげに光る。

なによ、どうして。

愛世にはなぜこんなにディアランが怒っているのか分からない。

「恋人に逢いたいかも知れないが、とにかく宮殿から出るな」

言えないと呟いた愛世に距離を置かれたのを感じ、ディアランの口から思ってもいない言葉がこぼれた。

たちまち愛世の眼が、信じられないといったように大きく見開かれる。

……しまった。こんな事を言う気はなかった。

けれど自分に秘密を持つ愛世に、ディアランは冷静でいられなかったのだ。

自己嫌悪を抱いたまま、逃げるように去ろうとしたディアランに愛世の掠れた声が届く。

「…恋人……?」

ディアランが立ち止まった。

「あなたと一緒にしないで」

愛世は、自分の気持ちを全く知らないディ
アランの言葉に小さくため息をついた。

それから悲しみを飲み込んで言葉を放つ。

「ディアラン。私は宮殿から出ない訳にはいかないの。それにディアランが心配しなきゃいけないのはあの綺麗な恋人でしょ?誰にでも優しくしてると彼女が焼きもちをやくわよ。私の事はほっておいて」

な、に?