「こら、お前らそろそろ訓練に…」

その途端、部屋中に乾いた口笛が響いた。

散らばって配置についた兵達に指示を出す際に吹く、隊長だけに許された独特の口笛である。

一瞬で静まり返った部屋と動きを止めた兵達に、愛世もつられてセロから離れた。

次に兵達の視線を追い、その先のスラリとした人物を見つけて眼を見張る。

……あれは……ディアラン……。

ディアランは真っ直ぐにこちらを見据え、よく響く低い声を出した。

「次の満月まで後十日余り。皆、気を引きしめて訓練及び警備に当たるんだ」

「はっ!」

兵達は短く返事をすると、きびきびとした足取りでそれぞれの持ち場へと散っていく。

「アイセ、またな!」

「あっ、うん!またね!」

セロも小声でそう言うと、愛世の肩をポンと叩いて外へと急いだ。

瞬く間に兵達が出ていってしまうと、ガランとした部屋に愛世とディアランだけが残る。

愛世の喉がコクンと鳴った。

……嫌だ。こんなの気まずい。

愛世はディアランを見ることが出来なかった。

先程の冷たい眼差しに、胸が痛んで苦しい。

早く出たい、ここから。

頼まれていた縫い物を手早く畳んで袋に入れると、愛世は出口へ急いだ。