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その日を境に愛世は毎朝早く起き、カルディのもとを訪ねた。

カルディの家は城からかなり遠いため、戻るのはいつも夕日が沈む頃である。

……今日も遅くなってしまったわ。

そう思いながら足早に進んでいた時、愛世はハッと我に返った。

「忘れるところだったわ」

兵達に頼まれていた縫い仕事をすっかり忘れていた愛世は、方向を変えると急ぎ足で近衛兵の宿舎へ向かった。

「すごい人…」

既に夕日は沈み、松明の炎が辺りを照らす中、宿舎は兵達でごった返していた。

混雑する兵達を避けながらようやく縫い物の置いてある棚に近付いた時、背後から大きな声が響いた。

「アイセ!いつも悪いな!」

愛世が振り返ると、セロが大きな体を斜めにしながら歩いてくるのが見える。

「セロ!」

愛世はセロにハグをするとにっこりと笑った。

ここのところセロは訓練で忙しく、愛世はひとりで街へ出ていたので二人が会うのは久し振りだったのだ。

……セロを見たら元気になる。だって太陽みたいに笑うんだもの。

「セロ、久し振りね!会えて嬉しい!」

あの日愛世がセロに身の上を打ち明けてからというもの、二人の間にはより深い友情が芽生えていた。

だが。

「ば、ばかっ!こんなとこ見られたら俺がディアラン様に…!いや、ええとそうじゃなくてその……こら、いい加減に離れろ」