「盗人猛々しいとは、このことだ」

…盗人猛々しい……。

ここ何日か街に出て山賊について調べていたが、こんな事を言われたのは初めてであった。

知らなかったとはいえ申し訳ない気持ちが胸を占め、愛世はいたたまれなくなり両手を握りしめた。

老人の言いたい事は何となく理解できる。

愛世は恐る恐る老人に向かって口を開いた。

「…山賊は……ザクシー族という部族なんですね。そしてティオリーンの人達はアンジー族…。おじいさん。もしよければ私に部族間の事を教えていただけませんか?」

老人は愛世の瞳をじっと見て、切り返すように質問した。

「どちらの部族でもないあんたが、何故知りたい?」

愛世は老人の薄緑色の瞳をしっかり見つめて答えた。

「ザクシー族が最初から山賊だった訳じゃないと思うから…。私、ザクシー族がどうして山賊になってしまったのか知りたいんです。それから」

愛世は呟くように付け加えた。

「私、盗人猛々しい生き方は嫌なんです」

老人は眼を見張った。

年端のいかぬ子供かと思いきや、意思の強さを感じさせる落ち着いた口調と迷いのない眼。

この娘は何か大きなものを秘めているのかもしれない。

「アイセといったな。また明日来なさい。教えて差し上げよう、部族間の話を。アンジー族とザクシー族、どちらの血も引くこの私、カルディが」

「カルディさん…!ありがとうございます!」

愛世は深々と頭を下げるとカルディを見つめて少しだけ笑った。

大きく前進した気がして嬉しかったのだ。