でも大丈夫だわ。

馬じゃない分時間はかかるけど、街への道は覚えたもの。

さあ、やろう。私がすべき事を。

愛世は手早く身支度を整えると、ひとりで城を出た。

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街を北に上がっていくにつれて段々と店の数が減り、賑わいが遠のいていく。

やがて民家しか見当たらなくなってきた頃、愛世は足を止めてどちらにいこうか思案した。

その時である。

「見かけぬ顔だな」

急に声をかけられ、愛世はビクッとしてそちらに向き直った。

すると家の軒先に置かれた椅子に、老人がひとりで腰かけているのが見える。

日に焼けたその顔には深い皺が刻まれており、愛世はそれに彼の生きてきた歴史を感じた。

ペコリと頭を下げた愛世に、その老人は続ける。

「その顔立ち、その肌の色…アンジー族ではないな。あなたは一体何をしに来られた?」

愛世は聞きなれない民族名に戸惑いつつ答えた。

「……アンジー族?あの、私は愛世といいます。山賊の事を調べていて…。もし宜しければ私に山賊の事を教えていただけませんか?」

言い終えた愛世を凝視したまま、老人は唇を引き結んだ。