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「いいか。絶対に聖火を絶やすな」

神殿に良く通る低い声が響いた。

アルファスにはやらなければならない仕事が山積みであるが、まずはエリーシャの呪いに備える事が最優先だと考えていた。

二週間足らずで次の満月がやってくる。

相手が悪鬼という魔性だけに、祈祷師達も必死で儀式を行っている。

それと同時に巫女達は鍛冶の神ヘパイストスを呼び出すと、全ての武器に祝福の息吹きを掛けてもらい、魔性を打ち負かす強さを与えてもらう作業を進めていた。

またアルファスは、帝国中に外出禁止令をしき、警護の分担を決める会議にも出なければならない。

王宮中に特別騎馬隊を配備するべく、志願者を募る作業も途中である。

加えて負傷者を手当てする医療棟増設の指示、医者と薬の確保についての確認作業。

数えきれない事柄の指示並びに最終確認をアルファスはやらなければならず、休む暇などまるでない。

ようやく慌ただしい日中が終わり、アルファスは星の夜空を見上げた。

果たして本当にエリーシャは悪鬼となって甦り、王である自分を亡き者にし、このティオリーン帝国を破滅させるのだろうか。

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愛世は朝早く起きた。

満月の呪いのせいで警備が忙しく、セロもロイも愛世を街へ連れていけなくなってしまったのだ。