そうして陽は顔色の悪いまま一日を過ごす。







けど、次の日は俺も仕事な訳で。






「陽、行ってくるね。」








「……どうし…て……も?」









「ごめん、……なるべく早く帰る」










「……ぅん」











妊娠して、不安なのに…俺がついていられないのはすごく申し訳ない…、と思った。






─────

───────16:00






今日は早めに上がって、家に帰宅。









「……ただいま、陽ー」









玄関から叫びながら家に入る。









リビングの電気は消えていてた。











「……陽ー?」









寝室に入ってみると、ベッドの上に座ってビニールに顔を突っ込む陽がいた。










「オエッ……、っ…」








「陽」









荷物を全ておろして、陽の隣に座る。











背中をさすりながら、ビニールを陽の手から受け取って。










「……泣くと苦しくなっちゃうよ」











「ッ………、ッ」







少し落ち着いたらしく、顔色の悪い陽は顔を上げた。








「…大丈夫?」








「…うん」










大丈夫じゃないことなんて、俺だって…陽だってわかってる。








ただ……何て言葉をかけたらいいかわからない。








「陽、何か飲む?」









「……飲まない」










「そう。」










「……今日早いね」









声にならない声で陽は言った。








「……うん。ちょっと早く帰って来れた」








「……ありがと」









そう呟いてから、陽は俺の胸元に体を預けて、っくりと目を閉じた。











いつもより早く病院へ来た俺は、季蛍の病室へ。








まだ寝てるかな…。









────ガラガラガラ









だけどそこには、病室の床に座っている季蛍。










「あれ?……何、どうした?」











「……んー」









「こんな朝早くから起きてるの、珍しいね」









なんて言いつつ電気をつける。









「……うわ。」










電気をつけて改めてみてみれば、点滴が倒れていた。










「……これ季蛍がやったの?」









「倒れちゃったの…、」









季蛍の顔は赤く火照っていて。










「……さっ…き、頭痛いの我慢で…きなくて、胸苦しくなっ…て、ナースコール押そうと思ったのに……、どっかいって…ッ」












「……どっかいって、ってそこにあるけど」










苦笑いしつつ座る季蛍を抱き上げて。











「……先生んとこ行こうとした…」











「…先生……って高島?」










「うん」










「そっか」



「…季蛍熱下がんないね」







体温計を抜いて呟く。










この頃季蛍の熱はずっと7~8度をキープしている。









「…うーん・・・やっぱり季蛍…ちょっと音悪いかな」










抱いて、そのまま心音を感じる。










「高島先生…は?」










「……こんな早い時間じゃ…まだ来てもらえないよ」












「…やだ」









「やだって言ったって…。なんで俺が来ると高島がいいの~?」









この間は俺を呼べって泣きわめいてたみたいだし。









「じゃあナースコール押す?高島いるかもしんないよ」









「うん…」




──バタバタッ ガラガラガラガラッ






「季蛍っ!」








「……うるさーい。高島…何そんな慌てて」








「だって蒼先生が呼ぶからぁ。一大事かと思いましたよ」








「ごめん」









「点滴持ってきましたよ」










「ありがと」











「で、どうしました?季蛍」











なんて言いつつ絡まった聴診器をクルクル解きながら座っているから、大体想像はついているらしい。













「季蛍がさぁ~」







いすに座って机に体を預けながら、ペンで机をツンツンしながら











「なんか頭痛いって、我慢できないくらい。」











「……そうなんですか。昨日の夜も言ってたんですよね、頭痛いって」












「そうなんだ。なんか苦しくてナースコール押そうとしたって言ってた」












「…あー。そうなんですね」











高島は顔を真っ赤にした季蛍の服のボタンを開けていく。










「やだ、ッ」












「動かない」












動かない、と言って季蛍の両手を片手で押さえてしまう高島………大分慣れている。



高島は季蛍の服の中に入れた手を動かしながら、







「聞きました~?昨日季蛍9度まで上がったんですよ」








「初耳」








「ですよね。強めの薬使おうかなって悩んでるんですけど、季蛍が嫌だって…」










「そうだよな…。」










「副作用嫌いなんですよね。季蛍ちゃーんは」













そう言って高島は聴診器を抜いた。












「んー……じゃーねー季蛍。昼までに熱下がらないようなら薬変えようか」








「…………」








「熱って…本来なら薬使えば下がるものだからさ。」








季蛍の渋々頷いた様子を見て、高島は少しはにかんでから








「じゃあ蒼先生……点滴ここ置いとくんで。僕嫌われちゃってますからー……」









「……なんで?」










「この前失敗しちゃったんですよ、一回だけ。点滴…」










「あぁ。なるほどね」











「まぁ~…嫌がって腕バタバタさせた誰かさんが悪いんですけど」








「結局は季蛍のせいか」











「動くから危なかったんですよ、ほんと。しばらく血止まらなくって。それが季蛍…多分トラウマなんでしょうけど…」










「まぁ自業自得。了解、じゃあやっとく」









「はい~、お願いしまーす」









高島はそっと部屋をあとにした。