リビングに座って、季節外れのココアを飲んでいた。









あれから数十分してようやくパパがリビングに。











「あぁ………」









疲れ切ってるし…。












「……今から病院行くの?」











「行きたいけど誰かさんが行かないって泣き喚くし……喉すら見せてくんないから」









「……。」









「行かない!って俺の指噛むし…」









「…はは………」









さすが病院嫌い。







私もだけど。



「……薬だけ飲ませとこ」








そう言ってパパは薬箱を漁る。










とその時、部屋から顔だけだしたお母さんが、人差し指をたてて






「しー…」











と寝室を出て行く。













「……季蛍っ!!」











まだ薬箱の方を見ていて漁っているのに、気づくパパの勘って……。










「何してんの?」











振り返ったパパは、お母さんを睨む。










「……ココアの匂いするから…飲みたくなっちゃった」












はあぁ…とため息をついたパパは、










「じゃあ薬飲む前に飲んで」










「やったー」













ココアを飲み終えた所まではよかった。








薬を飲む段階に来たら、お母さんはプイッと顔を背けちゃって。










「さっきいっぱいココア飲んだから薬飲めない」









開き直ったように言うお母さん。











「……そのためにココア飲んだんだろ?」









「……ち、違」







薬飲まない、




全く寝ない、




何も診せてくれない。







こんなんで治る訳がない。









今朝から愚図るように泣き始めちゃったし、愛優は友達の家にと言ってしまって…。










日曜日だから2人とも休日でいいものの、これじゃあ酷くなる一方。








「………気持ち悪い」











「…薬飲まないと治る訳ないだろ」












「飲みたくない、おいしくない」













「しょうがないじゃん。高島から錠剤は飲むなって言われてるんだから」









「……なんで!?」










「吐くから。……季蛍錠剤飲めないじゃん、だって。」










「………そんな…こと…な…ぃもん」










「じゃあ高島に電話して聞いてみる?…ほら。」









「……えぇっ」











照れてるし……。





高島に発信されている携帯電話を渡すと、恥ずかしそうに頬を真っ赤にさせちゃって。









しばらくすると出たみたいで、






「…もし……もし」









いつもは普通に話している季蛍も、何故か電話越しだと恥ずかしいらしい。











「……はい、。









…えっと……その……あの…」









………動揺しすぎ。











「……飲める…んです」










きゅ、急にそれ言ってもわかんないだろ。











「えっと……だから………あの…粉のやつ…







あ…だから………その…風邪……粉…」











主治医にすら『錠剤を飲んでも良いか』ってことが聞けない季蛍に、思わず笑ってしまう。










でも笑うといけないと思って笑いをこらえていたけど、そんな俺に気づいたらしく








「も、や、やぁっ」











と携帯電話を布団の上に置き去りにして、掛け布団に顔を埋めてしまった。









「ははっ…季蛍、ごめんって~。」











と言いつつも携帯電話を取って








「あーもしもし?ごめんごめん」









『蒼せんせー。なんですか?風邪粉って』











「はは、もう季蛍ー。……ごめんごめん、笑ってないよ」










「笑ってたっ」




「季蛍、ほら自分でもっかい。」








そう言って携帯を渡すけど、受け取ってくれず。









「あー…はは、ダメだ。季蛍さん落ち込んじゃったよ」









『落ち込んじゃったんですか?何か急に風邪粉っていうから何のことかと』











「粉じゃなくて、錠剤飲んでも良いか聞きたかったの」










『ああ、なるほど』











「……季蛍が粉薬嫌だって」










『いや…飲めるならいいんですけど。中途半端に飲んで、もう一回粉薬飲む…なんてことないようにしてほしいんですよ。


……季蛍、結構薬に敏感だから」









「…うん。了解」










『あ、今日病院来るんでしたっけ?』









「何とか連れていけたら」










『わかりました。季蛍に待ってる、って伝えといて下さい』









「うん。…じゃあ…ありがとう」









『いえ。』








「じゃ、後で」









『はい~。失礼しまーす』


「……飲めるならいい。中途半端に飲んじゃって、粉薬も飲む…ってことはダメ。

飲めるならいいってよ」








「………。」









「自信ないだろ」









「あっ…あるもんっ!!」









「そう?じゃあ持ってくるから。……あとで病院行くよ」










「嫌だっ。」









「これは強制」


「…はい。どーぞ」








粉薬が溶かされた薬のコップを見つめる季蛍。










「……錠剤じゃない」










「いいから飲め」









「……」










「…ほら。一気に」










「……ッ」









薬を口の中に流し込み、ゴクンと飲み込んだあと、顔をしかめた季蛍。









「吐きそう…?」










「……んー…」









片手にタオルで準備してるけど、顔をしかめて唸るだけ。











「……ん」








「あ、……飲めた?」










「うん…」










「よし。OK」



───────「いやあぁっ」









「季ー蛍っ」










「行かなああああいい」











ガラガラッ









「蒼せんせー。いいですよ」










病院の待合室の椅子にしがみつく季蛍と、それを診察室の中に引っ張る俺。








周りから見たら異常な光景であろう。










「行かない行かない行かない!」










「ほら。……高島ごめん」










「いや。……季蛍、説得しなかったんですね」










笑いながら言う高島に










「説得したって納得してくんないよ…。」