コウは、僕たちの思いを感じることはできないのだろうか。

それなのに、心を感じられないのに、どうして人の心に響く音色を奏でられるのだろうか。

ケンは目の前で演奏されるコウのピアノを聞けば聞くほど、その音色に魅せられる一方で、言いようのない無常さに、自分の感情をコントロールできなくなるほどだった。



「もし、コンサートをやるなら‥‥こんなことを言うのは心苦しいんだけど、コウのルールに合わせてもらえるかしら?」

コウの母が申し訳なさそうに切り出した。

「コウのルール?」

「そう。私たちのルールでなく、コウのルール」