渡瀬家では、コウのピアノにあわせて、母親が歌をうたった。

コウの反応が気がかりだったが、特に動揺している様子も無い。

耳なじみのいい母親の声だからかもしれないが、とりあえず一歩進めたということは事実だ。

僕らは喜び、この夢が実現できるとさらに確信した。




アキは、男声と女声の二部合唱に決め、それぞれのパート練習に力を尽くしていた。

誰からともなく始業前に教室に集まり、パートごとの練習が始まった。

それぞれが自発的に自分の仕事をこなしている。

アキは、また一歩、道が開いたような気がしていた。

手ごたえというのだろうか、心の中に湧き立つ充実感がアキを包んだ。




いちばんの問題は英語の歌詞だった。

英語を習っているものはクラスに何人かいたが、歌詞を完璧に読めるものはいなかった。