「おばさん、こわいぐらい順調なんですよ」

コウの母親はいつもの笑顔で迎えてくれた。

渡瀬家が古い日本家屋のせいか、この家に入ると僕はノスタルジーを感じる。

この空間だけは別の時間が流れているような、そんな錯覚をする。

「コウ、家でも弾いてるわ。気に入ったみたいね」

コウの母も嬉しそうだ。

「それにね、私もこの曲大好きよ。ケンくん」

コウの母の肯定的な言い回しは僕をいつも安心させた。

「心配しすぎもよくないわ。大丈夫、きっとうまくいくから」

「実はお願いがあるんです」

「あんまり無理なことは言わないでよ」

ちょっと驚いたような振りをしてみせたが、コウの母親は笑って言った。

「あの‥‥おばさん、この歌知ってるんでしょ?」

僕はカーペンターズの譜面を見せた。

コウの母親の顔が急に華やいだ。

「カーペンターズじゃない!」

心を躍らせているのが手に取るようにわかった。

「懐かしいな‥‥。そうよ、学生の頃よく歌ったわ。でも、誤解しないでね。私の頃はカーペンターズの再ブームのときだから。もちろんカレンが死んだ後よ」

カレンは死んでいるんだ‥‥。

僕は初めて知った。