「あたしさ、音楽室での演奏、ときどき聴いてたんだ」

「え?」

「ごめんね、こっそりのぞくようなことして」

アキは照れくさそうに頭をかいた。

「はじめは、ユウキがみんなに言いふらしてたから、おもしろ半分で観に行ったんだけど、びっくりしちゃった」

僕とコウの二人だけの交流と思い込んでいたが、実は他の人にも聞かれていたんだと思ったら急に恥ずかしくなった。

「だろう?」

僕はわざと強気に言った。

そうでもしないと、心の動揺をアキに見破られてしまう。

図書室の静寂はどんなちっぽけな音だって生かしてしまう。

僕は僕自身を取り戻そうと、深く呼吸を整えた。


「コウくんは天才かもね」

アキは冗談めかすことなく、真剣な口調で言った。

「やっぱそう思う?」

ケンが軽い口調で流すのが不本意だったらしく、アキは体を横にして座りなおし、ケンの目をじっと見つめた。