曲はまもなくフィナーレを迎えようとしていた。



僕は必要以上にフォルテッシモで鍵盤を叩いてしめくくった。

額にうっすら汗がにじむ。



その汗をぬぐおうとしたとき、何かが視界に入った。

譜面台に人影が写っていたのだ。



振り返ってぎょっとした。

少年が一人教室の隅に立っていたのだ。


「誰?」


いつからそこにいたのだろうか。

少年は何も答えようとはせず、ピアノを見つめるだけだった。




僕は、黙って覗かれていたことに腹が立ち、つい声を荒げてしまった。

「だから誰なんだよ、お前!」

少年の視線は僕に注がれることなく、ピアノに向けられたままだった。



「誰なんだよ、お前」

少年がぽつりとつぶやいた。



なんだ、こいつ。

気味が悪い。



これが少年に対する第一印象だった。

ただならぬ空気を感じて、僕は戸惑うしかなかった。