沢村は教室の後ろのほうを見ていた。

視線の先にはコウの描いた絵が貼られている。
 



赤いグランドピアノの絵。

感情をむき出しに書きなぐったような絵。

これはコウの心の中なのだろうか……。



「うまく弾こう、とかそういう邪念はあの子は持ち合わせていないの」




邪念……。

そうだ。

僕の中にはいつもそれがある。

いくら振り払っても僕から決して離れない。




「鳥がさえずるように、あの子の中の何かがほとばしるっていうか‥‥」



確かに、あのときのコウのピアノは、ただ弾いているだけはなかった。

コウの魂の叫びというか、悲鳴が聞こえた。




「僕、鳥肌が立ったんです。素直に感動しました。だからコウが望むように、満足するまで、ピアノを弾き続けようと思って」



お世辞でもなんでもない。

ケンは素直に感じたことを言った。



「ケンくん‥‥」

沢村は、涙ぐんでいた。