「私も初めて気づいたとき、本当にびっくりしたのよ」

「あいつ、ピアノ習ってるんですか?」

「いいえ。コウくんは誰かに何かを習うってことが難しいから」

沢村は肩をすくめてみせた。

「じゃあ、どうして?」

僕は思わず身を乗り出してしまった。



コウの弾いた『軍隊行進曲』は本物だった。

僕の聞き間違いとか、思い違いとか、そういうことではない。

あのとき、コウはまるで一人の演奏家のように、僕を魅了した。



「コウくんは私たちとは違う感覚があるの。ケンくんが弾いてくれた曲があの子の中に入ってしまうっていうか‥‥」




まぶしいほどの日差しが教室に差し込む。

僕は、瞬きをせずにはいられない。




「私たちがピアノを弾く感覚とは違う感覚であの子はピアノを弾いているの」