「ピアノ弾きます」

誰かが小さな声でつぶやいた。

僕は夢を見ているのだろうか。



「ピアノ弾きます」

また同じ声が聞こえた。

夢ではなかった。



コウが何かを握り締めたまま、そこに立っていた。



「なんだ、おまえかよ。また沢村先生が探しているんじゃないか?」

「ピアノ弾きます」

コウはその手に持ったものをケンに手渡した。



「ピアノの鍵じゃないか!おまえどうやって持ってきたの?」



しかしコウは、こう言うだけだった。

「ピアノ弾きます」



「おまえ、俺に弾いてほしいってこと?」



コウにうながされて、鍵を開けた。