「ケンはね、アメリカの大学に進学したの。あっちで発達障害について学びたいって。アメリカは本場だからね」

「アメリカ……?」

「ケンは言ってたわ。コウと出会わなかったらアメリカの大学に進むこともなかっただろうって。コウと出会えたから自分自身の未来とも向き合うことができたって」

コウの母は両手で顔を覆う。

その手を伝って涙のしずくが溢れ出す。

「でもね、私もケンもいちばん感謝してるのは、おばさんなの」

コウの母は「私は何もしてないわ」とでも言うように手を横に振った。

「ううん。おばさんのおかげなの。いろんなことを教えてくれた。いっぱい勇気付けてくれた」

アキは溢れる思いを一つ一つ丁寧に言葉にする。

「絶望と無力感で未来を探せない私たちにおばさんは大切なことをたくさん教えてくれたわ」

あの頃、感情の持って行き場を見つけられず、飲み込んでばかりいた私たちにコウの母はいつも寄り添ってくれていた。

「だから私たちはここからじゃないとはじめられないの」

ここは私たちが戻るべきところ。

母親の胎内のように、ここにいれば無防備に自分をさらけ出せた。

子守唄にあやされながら過ごした遠い日をアキは思い出していた。