「嫌だ、ひかないでよ」




母は僕の反応をつぶさに見守っていたのだろう。

夢うつつの僕をひいていると勘違いしたのかもしれない。




「ごめん、黙って聞くから」

「本当にがんばって告白したんだけど、母さん振られちゃったの」

「マジで?」

「うん、でもあきらめなかったの。すごいでしょ?」

「でもどうして振られちゃったの?」

母さんは一瞬思いつめたような顔になった。



「父さん、結婚していたの」




え……?




「『僕は結婚しているから付き合えません』って。でも母さん、そんなのどうでもよかった。結婚していたからって、父さんを好きな気持ちをとめることなんてできないし」




僕の知らない母の顔だった。




「だから『それでもいいです』って父さんを困らせた」





想像もしていなかった。

僕はてっきり父さんが浮気をして出て行ったのとばかり思っていた。





しかし、真実は僕が不倫の末できた子どもで、父さんに認知された存在だったということだ。